こころと向き合う東洋医学―『老子』と薬膳のすすめ

 風薫る五月。梅雨に入る前のからっとした心地よい晴天の日を五月晴れといいますが、今年は梅雨の訪れが早そうです。

 そんな爽やかな季節であるはずの五月には、似つかわしくないような五月病という言葉が日本で使われるようになったのは、いつごろからなのでしょうか。チコちゃんに訊いてみたくなりますね。

 新年度が四月から始まって、学校や職場などの環境変化に緊張感をもって向き合ってきた「からだ」と「こころ」の疲れが出始めるのがゴールデンウィーク明け。そのタイミングで大学に出てこなくなる学生のことを五月病と言い始めたという説もあります。

 それでなくともコロナ禍が始まってから、こころの不調を訴える人が多くなっている、というニュースは世界中で報道されています。

 なんだかやる気が起きない、つかれやすい、食欲がわかない、よく眠れない、ものごとを悲観的に考えてしまう・・・そんなあなたにおすすめしたいのが、『老子』と薬膳!

 実は最近、とてもポップな意訳ならぬ医訳『老子』本に出合いました。野村総一郎著『人生に、上下も勝ち負けもありません 精神科医が教える老子の言葉』(2019年、文響社)です。

かわいい装丁ですよね。中もかわいいですよ!

野村さんは、読売新聞の「人生案内」の回答者を長く務めているので見かけたことのある方もいるかもしれません。強面なところでは、防衛医科大学校病院病院長も歴任しています。日本における精神療法としての認知行動療法の第一人者だそうです。

 実は、認知行動療法は西欧的な合理的思考が根底にあって、日本人のこころの問題に向き合うのには「日本らしいカスタマイズ」や「東洋思想に見合ったアプローチ」が必要だと野村先生が感じてきたときに、臨床現場で効果を発揮したのが老子の言葉だったとのこと。

 2,500年以上の時を越えてきた老子の言葉を、特に悩める人が陥りやすい4つの心的傾向にあわせて32の思考としてピックアップした本です。4つの心的傾向は、以下のとおり。
①自分は弱い=劣等意識
②自分は損をしている=被害者意識
③自分は完璧であるべきだが難しい=完璧主義
④自分のペースにこだわる=執着主義

 これに対して、老子は言います。
「強い者が勝つ、弱い者が負けるというのは思い込み」
「多くを望まなくていい」
「所詮、価値は相対的なもの。絶対的な価値基準など存在しない」
「自然のまま、流れに任せて生きるのがいい」

 紹介されている32の思考には、キャッチコピーがついていて面白いんです!例えば…
「自分は何も残せていないと思ったら 昆布の思考」「人と比べてみじめになったら 銅像の思考」「がんばりすぎていたら 幽霊の思考」「今の社会になじめないと思ったらパンタロンの思考」などなど。イラストも力がぬけたユルユル感が良いのです~!

 そんな『老子』と東洋医学はどんな関係にあるの?と思われた方もいるでしょう。実は、東洋医学は東洋思想と切っても切り離せないものなのです。そこが、面白くもあり、難しいところでもありますよね。

 東洋思想研究家の池田知久著『老子』(講談社学術文庫、2017年)では、老子の思想を五つの観点から徹底的に解説しています。①哲学、②倫理思想、③政治思想、④養生思想、⑤自然思想、です。

④養生思想が意外じゃないですか?そう、養生こそが医学の根本!
自らと他者の「いのち」をやしなうことが養生なのです。

 わたしたちが「こころ」も「からだ」も健やかにはぐくむためには、どうしたらよいのか?いつの時代にあっても人類の大きな課題ですよね。2,500年前から紡がれてきた養生をめぐる叡智が『老子』には含まれているのです。

 実は、江戸時代の医家の間でも熱心に『老子』が読まれてきたことも分かっています。大根のお漬物としてしか認識されていないかもしれない沢庵和尚こと沢庵宗彭(1573₋1646)の著作には、鍼の仕方を含む医学書とともに『老子』の解説書が含まれています。

 というわけで、現代日本の精神科医が治療の一環として『老子』の言葉を紹介することは、とても理にかなっていますし、わたしたち東洋医学を実践する鍼灸師も『老子』から学び続けたいと思います。

 とはいえ、本を読むことは「こころ」に効くけど、「からだ」の方にもダイレクトにはたらきかけようとするなら薬膳!ですよね。

 2,500年前から東洋医学では「こころ」と「からだ」が密接に結びついていることに注目してきました。怒る・喜ぶ・悲しむなどの感情や精神意識活動は、「からだ」の五臓六腑の働きと相互に影響しあっているので、それらをコントロールするための様々な工夫が医書にまとめられてきたのです。

今回は、五月病との関連に限って、おすすめの薬膳茶を紹介しましょう。

抑うつ症状には、すっきりと発散させる作用がある食材がおすすめです。薬膳でいうところの理気類。お茶にするなら、柑橘類全般を活用するとよいですね。特におすすめなのは、みかんの皮を干した陳皮!オレンジやレモンなどのエッセンシャルオイルをお茶に入れるだけでもOK!

ただ、お茶の種類に気を付けましょう!身体が冷えやすい人には、緑茶はあまりおすすめできません。緑の茶葉をそのまま加工した緑茶は身体を冷やす涼性。茶葉を発酵させた紅茶が、身体をあたためてくれる温性。半発酵のウーロン茶は中間の平性です。ただし、ぷーあーる茶は涼性です。

市販されているアールグレー紅茶も、実は柑橘系の香料であるベルガモットが使われているので、ちょうどよいかもしれませんね。ジャスミンの香りも緊張をやわらげる効果があります。

 嗅覚は、五感の他のものとは違って、脳に直接作用します。自身の感情コントロールに香りを活用することを考えるのもおすすめです。ストレスが溜まりそうな時に、好きな香りでリフレッシュ!

 『老子』片手に薬膳茶で、「こころ」と「からだ」に働きかけてみませんか?

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