あけましておめでとうございます(2025年)~新年に「伝統文化」を考える~

 皆さま、新年あけましておめでとうございます。本年もVida Sanaをどうぞよろしくお願い致します。

 なんと本年は2025年!ミレニアム突入時に結婚した方々は銀婚式を迎える年なんですね。

 日本で銀婚式をお祝いする習慣が広く知られるようになったのは、明治27年に明治天皇大婚25年祝典を行ったのがきっかけだそうです。日本では伝統的に家制度が重視され、欧米のようなカップルを単位として家族形成する文化ではなかったのに、英国式の儀礼を参考にしてしまい、皇室「伝統行事」として銀婚式・金婚式がお祝いされるようになったんですね。近代日本天皇制のつくられた「伝統行事」の姿がみえてきます。

 このあたりの歴史に興味がある方には、米国の研究者タカシ・フジタニ著『天皇のページェント』(NHKブックス、1994年)の一読をお薦めします。

 というわけで(!?)、新年には様々な「伝統行事」が行われることもあって、昨年末から「伝統」にもやもやしていたChikakoの想いを、今回は皆さまと共有する機会とさせていただきます。新年から「もやもや」な話題もいかがかとは思いますが…

 「日本伝統鍼灸」にかかわる人間として避けられないテーマだと感じるわけです。

 実は、昨年12月に第44回伝統文化ポーラ賞授賞式@ザ・ペニンシュラ東京にご招待いただきました。いや我々Vida Sanaが受賞したわけではありませんよ! 

 長年、個人的におつきあいさせていただいている琉球藍染織の継承者で沖縄県立芸術大美術工芸学部の元教授・真栄城興茂さんが地域賞を受賞されたお祝いに駆け付けたのです。

 藍にも色々と種類があるということはご存知でしょうか?

 藍色に染まる色素をもつ植物は百種類以上あるそうです。本州の藍と琉球藍では全く種類が異なります。例えば、デニムの染料として有名なインディゴはインド藍です。

 とはいえ、近年は化学染料が世界を席巻しています。

 興茂さんは琉球藍を栽培する段階から、収穫した藍を発酵させて染料をつくり、染織の最終行程まで、とことん手間暇かけたこだわりの「琉球美絣」を世に送り出し続けています。本当に美しい繊細なお仕事なんですよ~。

 実は、「琉球美絣」は興茂さんのご両親世代からの家業。伝統技法を守りながらも、琉球藍だけでなく、フクギ、ヤマモモなど沖縄の大地に根差した植物染料の色合いを織りこむ絣模様やグラディエーションの縞などで新たな感性を注ぎ込んだのです。写真をご覧ください。

 一見、伝統的な絣織着物になっている全体像から部分に寄っていくと…タイトルどおり「LOVE」模様!

 その心は、

 BEATLES!

 なんだそうですよ。

 “らーぶ、らーぶ、らーぶ”!!ほぼ40年前の作品。その斬新さゆえ、当時は賛否両論だったとのこと。

 興茂さんは、米軍統治下に生まれ、高校生の時に本土復帰を迎えた世代。沖縄を表記するのに、「OKINAWA」の方がしっくりくるという感性によって表現された染織。LOVEは斬新なデザインではありますが、絣のひとつひとつの柄は古典的。Lはバンジョー(番匠)、Oはジンダマ―(銭玉)と呼ばれる古くから使われてきた柄。組合わせの妙!伝統を現代に活かすとはこういうこと?!というメッセージ性もびんびん伝わってきます。

 興茂さんの作品は、今回のポーラ賞を待つまでもなく、1994年日本伝統工芸展文部大臣賞受賞他、受賞多数。では、今回受賞される伝統文化ポーラ賞って何? とChikakoは疑問に思ったわけです。

 受賞式でいただいたパンフレットによれば、同賞は、ポーラ伝統文化振興財団が1981年から設けているもので、

 「伝統工芸、伝統芸能、民俗芸能という日本の無形の伝統文化の保存・継承・振興を目的とし」ているそうです。

 素晴らしい「わざ」や「文化」を現代に受け継ぎ、未来につなぐ道筋を作ってきた功績を顕彰する事業とのこと。

 ちなみに、今回の他の受賞者の顕彰理由は、

 木工芸の制作・伝承、能シテ方の演技・振興、金工の制作、福島および兵庫のローカルな地域の獅子舞の保存・伝承、埼玉の虫追いの保存・伝承、手漉き和紙の保存・伝承

 とのことでした。

 1981年から、ず~っと上記のような「伝統工芸、伝統芸能、民俗芸能」を顕彰なさっているのですよ。素晴らしい事業を続けて下さっている。うん。受賞が励みになる方たちもいるでしょう。

 しかし、

 なんだか、もやもやしませんか?

 いや、それぞれ受賞された方や団体にケチをつけているのではないのです。誤解しないでくださいね。私がもやもやしているのは、「伝統文化」と言った時に上記のようなカテゴリーが設けられてしまうことなんです。

 つまり、ざっくばらんに言って、労多くして稼ぎとしては決して恵まれるわけではない工芸や芸能における「職人わざ」か、日本社会から「ムラ」がなくなって消滅の危機に瀕しているのではないかと思われる民俗芸能が「伝統文化」と呼ばれるんだなぁ、というさみしい気持ちが私の心の中でむくむくと湧き上がってしまったのです。

 私たちが生きる現代日本社会における「伝統文化」をめぐるさみしい気持ち…

 分かっていただけるでしょうか?まあ、私の勝手な気持ちですけどね。

 喩えて言うなら、日本の平均寿命は世界でもトップクラスの女性87歳、男性81歳。ところが、健康寿命は女性73歳、男性70歳。不健康な状態で10年ほど生き延びていることが、常態化しているという現状を想い起こさせます。医療技術が進んだから、不健康な状態になっていても、寿命が延びてよかったね、といわれる感じに似ていませんか。

 健康に寿命を全うしたい!というのならば、医療技術の発展を待ち続けるのではなく、自らの健康を自らでケアしていこうではありませんか。つまり、養生です!何をどう食べるか、身体をどのように動かすか、睡眠の質をどう向上させるか。健康が降ってくるのを待っているのではなく、自分で求めなければ健康は得られないのは当たり前。

 「伝統文化」もちょっと似ている。すでにできあがったものが伝統文化なのではなく、私たちがつくっているもの。文化は生き物だと思うのです。私たちの日々の実践が文化。

 特別なハレの機会に披露される芸や技だけが文化なのではないはず。例えば、日常生活の中で私たちが何をどう食べているか、それがどのように栽培・収穫。加工されているのか、といったことも含めて文化なのです。ていねいに暮らす心がけこそ顕彰されてほしい。

 そんなこんなで年末までは、ちょっとそんなブルーでもやもやした気持ちが尾を引きました。

 しかし、晴れの新年です!

 むしろ、「伝統文化」という錦の旗をかざして進めば、面白いことができるかもしれない!というポジティブな方向転換をしよう!というのが2025年Vida Sanaのモットー。

 「日本伝統鍼灸」は日本人が担わなければならないものでもないし、日本でだけ継承されなければならないものではない!ということは、われらがFelip Caudet先生が身をもって証明してくださっています。Vida Sanaも日々、新たな伝統を創造していきたいと密かに志しておりますので、皆さまのご指導のほど、引き続きどうぞよろしくお願い致します。

 2025年が皆さまにとって健やかで幸多き一年となりますよう心よりお祈りしております。

【真栄城興茂の作品の一端を知ることのできる参考文献】

沖縄タイムス社2003『真栄城興茂織作品展』沖縄タイムス社.

與那嶺一子2009『沖縄染織王国へ』新潮社.

『季刊「銀花」冬:沖縄、藍の風邪』第152号、文化出版局.

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