みなさま、こんにちは!
いよいよ夏本番がやってこようとしている今日この頃。6月にして早突然の35℃は身体に堪えます。ここ数年は毎年35℃になると「そうでしたそうでした、日本の夏ってこんな暑さが普通になったのでした」と思い知らされます。
さて、そんな暑さを吹き飛ばすVida Sanaの戦略は?
見つけてしまいました!
万事、吟ず!
吟詠です。詩吟です。
え?!何それ?
となるのが、一般的な反応ですよね。
まず、詩吟って?
という方のために、詩吟について説明します。詩吟とは、漢詩や和歌などに、節をつけて歌う(=吟じる)日本の伝統芸能。もともとは江戸時代に、藩校などで武士が漢詩や和歌の教養を身に着けるために節をつけて詠むようになったのが始まりとされています。
アニメや映画で人気になった『ちはやふる』で小倉百人一首が独独の抑揚で読み上げられるのは聞いたことがある方が多いかと思いますが、あの感じとはちょっと違います。詩吟では節をのばしたり、音程を揺らしたりして操作することで詩の中の感情が呼び起こされます。どちらかというと民謡の謡い方の方が近いと思います。演歌のようにねっとりした節回しではないのが詩吟の特徴かもしれません。
しかし、何故、Vida Sanaが詩吟をすすめるのか、ですよね。
それは、ずばり「大声を出す」という健康法だから。
え?それは詩吟をやっている方たちにとって本意なの? と突っ込みたくなる方もいらっしゃるでしょう。まあ、Vida Sanaとしても最初から詩吟を健康法と考えていたわけではないんですよ。そこには、素敵な偶然の出会いがあったのです。
Vida Sanaが詩吟と遭遇したのが、つくば市と土浦市の境にある上高津貝塚ふるさと歴史の広場~宍塚大池という自然公園。そこは古墳だったといわれる丘や縄文時代実際に貝塚の遺跡が見つかっている場所です。完全に整備された公園というよりも原始的な森に近い雰囲気なのが魅力。こんなにつくば市の中心部に近いところで本格的森林浴ができるとは!

さらに、そこを管理してくださっているNPO法人「宍塚の自然と歴史の会」が活動の一環で森の中で畑や田んぼを作っていたり、手作り感満載の休憩場所があったりして、変化に富んだ森なのです。

ある日、その池の周りを散歩していると突然「あーあ!」という大声が聞こえてきたんです。森にさえぎられて姿は見えませんが、何やら、先生らしき人が先に発声して、その後に団体さまが発声しています。池の対岸から聞こえてくるのですが、そのうち音階がついている発声だと分かりました。しかも、いわゆる「ヨナ抜き音階(4番目=ファ+7番目=ソがない5音階)」という童謡や民謡でよく使われる音階です。これは普通の演劇の発声ではないけど、なんだろう?と疑問に思いつつも池を一周して対岸に着きました。
そこには、どうやら例の大声を出していた団体がいらっしゃったのです。興味津々。「こんにちは!」と明るく挨拶をされました。なにやら漢詩のようなものが書かれたテキストが目に入ったので、思わず「詩吟ですか?池の反対まで声がよく聞こえていましたよ」と声を掛けました。「あら、よくご存じですね、お若いのに」というおばさまのお返事。いやいや若いかどうかは置いておきましょう(笑)。

すると、先生と目される方が、詩吟コンダクターと呼ばれるキーボードのようなもので音階を伴奏してくださりながら漢詩が吟じられる様子を見せて下さりました。なんと毎週青空の下で詩吟をする団体だったんです。
その後、先生のお名前は小林北鵬とおっしゃることが分かるのですが、先生の声が本当に素晴らしい!「あーあ」という発声だけで、空気の震え方によって皮膚が粟立つような感覚になります。とても八〇代の声とは思えない声量です。実は、You Tubeでも先生の吟ずる様子が拝聴できるのですが、あの空気がビリビリする感じは対面でないと伝わりません。(小林北鵬先生が吟ずる動画)
その先生が「青空の下で池の対岸に届くような大声を出すのは気持ちいいんですよ~」とおっしゃるので、「わたしたちも参加してもいいですか?」と思わず言ったのが事の始まりでした。
みなさま、最近大声を出したことはありますか?しかも野外で。
山に登って「ヤッホー!」と叫ぶ人、特に大人は最近ほとんどいないかも(笑)。
カラオケに行ったり、ライブに行ったり、サッカーの応援に行ったりする方は大声で歌うこともあるかもしれませんが、大人になってから子どもの時のように大声を出すことは少ないかと思います。
さらにコロナ以降、大きな声を出す機会は減りました。そもそもリモートワークで一日一度も人と話さなかったなんてことも珍しくない方もいらっしゃいます。
声を出さないと自然に声帯の筋肉が衰えます。同じ器官を使う呑み込む力も衰えてきます。このような滑舌が悪くなり噛む力や呑み込む力の低下が起こる状態をオーラルフレイルと呼びます。かつては要介護状態の高齢者しか関係ないと考えられていましたが、最近では20代の若者にも起こりえるといわれています。
アフターコロナの現代社会には、意識的に声を出す機会が必要になってきますよね。そこで、詩吟です!
われらが小林先生のご指導では、「声だしの際には口を思い切り開けて、人間であることさえ忘れるくらい恥ずかしさをかなぐり捨てて、喉も完全に開いて腹から声を出せ!」と言われます。「あえいおう」の声出しをするだけでも腹筋が痛くなる感じです。大音量の声を出しても先生の声が枯れることはありません。声帯に無理をさせていない自然な発声だからだそうです。
表情筋もかなり動かします。これはいわゆる「顔ヨガ」と同じですね。顔のたるみを予防してくれる美容にもよいではないですか!
青空吟詠会の先輩諸氏は平均年齢80歳越えですが、皆さん声に張りがあってお元気な方ばかり! それも10年、20年と詩吟を続けてきた効用ですね。
そして、詩吟のもうひとつの重要な効用。そうです。そもそもの始まりからして漢文や和歌などの教養を深めるのが目的で始まったのが詩吟です。古典の味わい方が変わります。
詩吟を始めてみると、それまで声に出して歌うことなど想像をしていなかったイメージが現実に甦るような感覚を得られました。詩はもともと「読む」ではなく、「詠む」だったんだ! ということを改めて認識しなおす契機になります。
詠うことによって湧き上がるイメージの共有をすることが情緒につながるんですね。試験勉強として漢詩や和歌に触れると情緒なんてどこかに吹き飛ばされてしまうのではないかと心配です。
心を込めて吟ずるためには、その詩が生まれた時代背景や作者の人物像を知ることが助けになります。日本の歴史の中で知識人が詠み継いできた詩にまつわる教養は、詩吟によって自然に深めることができるのです。
このあたり、多くの国語教育関係者に力説したい! 試験ではなくもっと詩吟を(笑)!
Vida Sanaが最近教えていただいたお気に入りの漢詩をひとつ紹介しましょう。
平安時代の高僧:空海(774-835)が詠んだ「後夜仏法僧鳥を聞く」です。

書道の達人=弘法大師と言った方がなじみ深いでしょうか。空海は高野山・真言宗の開祖であるだけでなく、雨の少ない四国でため池を作る灌漑事業も指導した多彩なカリスマ。医薬の知識を唐から伝えたという意味では鍼灸師にとっても憧れの人。空海の魅力については、中沢新一著『雪片曲線論』(中央公論新社)の「流体とフラクタル」でも詳しく解説されていますので、興味のある方はご一読を。教養が深まります(笑)。
もともとは七言絶句ですが、読み下し文で記します。
閑林独坐す 草堂の暁 (かんりんどくざす そうどうのあかつき)
三宝の声 一鳥に聞く (さんぼうのこえ いっちょうにきく)
一鳥声有り 人心有り (いっちょうこえあり ひとこころあり)
声心雲水 倶に了了 (せいしんうんすい ともにりょうりょう)
空海が高野山の林の中のひっそりとしたお堂で瞑想をしている夜明け頃、ブッポウソウと鳴くコノハズク(フクロウ)の声が聞こえてきた時に仏教の真理にはっと気づくさまを表現しています。仏教の三宝とは「仏・法・僧」(仏自体・仏の教え・仏の教えを説く僧侶)ではないか。それを無心で鳴いている鳥に気づかされる。鳥の声と人の心が一体になり、流れる川や雲のような大自然もひとつに溶けていくのを感じられる。それこそが仏の道の真理…
空海の詩を字面で読むだけでなく、声に出して吟ずることによって空海の想いが現代に甦るようではありませんか。You Tubeでおすすめの詩吟「後夜仏法僧鳥を聞く」のリンクを貼っておきますのでぜひ聴いてみてください。
また、You Tubeには宗家の先生方が吟じている動画が多数存在します。つい30年前でも、素晴らしい詩吟を耳にするには、実際に先生の所に行くか、ラジオやテレビの音源を聞くかしなければなりませんでしたが、You Tubeでは良いものがタダで聞けるんですね。そういう意味では素晴らしい時代になりました。
しかし! 既に述べたように、詩吟は生で聴くのが一番! 詩吟の流派は日本全国に3000あるともいわれています。街中を探してみると案外、詩吟を教えてくれる先生がたくさんいらっしゃいます。あなたの街の地域交流センターなどにも、詩吟教室があるかもしれません。最近は詩吟を披露するお笑いタレントなどもいて、若い世代にも身近な伝統芸能として実践したい方が増えているのでは?という見方もあるようです。老若男女問わず! 何歳からでも挑戦できるところがいいですね。
さあ! これからの20年、30年、40年を見据えて、詩吟を始めてみませんか?聴いているよりも実践する方が百倍楽しいですよ。踊る阿呆に観る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損! 暑さも吹き飛ばして、声帯を鍛えて、嚥下もばっちり、教養もばっちりの元気な老後を迎えましょう!
それでは、皆さまがオーラルフレイルと無縁でありますように。
〈参考文献〉
乙津 理風 著『詩吟女子 センター街の真ん中で名詩を吟ずる』春秋社 2025/02/14